無能でも無敵になれる職場、それがSier
はじめに
これは低層のSierが体験した”クソゲー”みたいなプロジェクトにいた人材の紹介です。
何もわからない
この人には何を聞いても無駄でした。設計もコーディングもコピペしただけ。なんでこうしたのか聞くと「似たところからコピーしただけです」もしくは「わかんなーい」でした。自力でできることは何か問われると1、2行くらいメモは書けるかもしれません。でも議事録が任せられるかと言われれば不安です。
ただ、年次は20年以上あり、このSier業界一本で生きてきた人なので、派遣先からは1人分の仕事を振られます。この人をどう扱うかはリーダーの腕の見せ所なのかもしれません。ただ、この人でも理解できるように設計書やルールを作る必要があるため、非常に厳格で細かいルールや真の意味でだれでもコーディングができるように設計書を書く必要性に迫られていました。
キャラクター性だけで勝負している
ではこの人がなぜ、これまでやってこれたのかというとおそらく人当たりが良いからです。話の内容は理解できているかは怪しいものの共感を得る能力や感情に訴えかける能力があったことは確かです。そう思うのは設計ができるわけでもなければ、プログラムのif文などの基本的な文法すらも理解していないためです。コピペ元がなく自力で仕事を完遂することはできたところを見たことがありません。
一方でプロジェクトのメンバからは好意的に受け入れられていたように思います。おそらくなのですが、人に好かれやすい特徴を持っているなと感じました。その性質と本人が能力の不足を深刻に捉えていなかったことが合わさって上手くいっていたのだと思っています。
ほぼ無敵
リーダーに気に入られている + 自力で何もできない
この組み合わせはメンバーにとっては非常に凶悪な組み合わせでした。この方の仕事を他の人が負担しなければならないためです。しかも、最悪この方がコーディングを担当したり、設計を引き継いだ時に備えて、この人でも理解できるものを作らなければなりません。コーディングや設計のレベルも意図的に引き下げられていました。
私もこっちの方がより良い表現ですとか、こちらの方が簡潔で分かりやすく書くことができますと提案したことはありますが、「それ、○○さんでもできる?説明するのは君だよ」という旨のことを言われれば口を噤むよりほかありませんでした。逆にこの人でも書けるようにという方針のもと、どんどん複雑なルールが増えていくという状況が起こっていました。
本人に言っても最終的には「わかんなーい」「憶えるから教えて(代わりにやってという意味)」といった状態で改善も望めませんでした。ほぼ無敵である。
増やされるルールと無気力感
この方でも設計や製造を行えるようにするためのルールがどんどん増やされていきました。
- 記述文言の完全な統一
「○○されたら自動挿入」といった穴埋め式で文章を組み立てることができるように完全に同一の文章を書くことを求められるようになりました。この人物がルールを破るとその人物に合わせて新しい文言のルールが追加されていきます。すべては”その人でも書ける”ことが求めれてました。 - コードの書き方の統一
メソッド名、処理の記述方法などその人が記述するであろうコードはすべて記載方法が決められていました。あとは穴埋めするだけです。そのルールからそれるとその人物がコピペできるコードが減るという理由かはわかりませんが、修正を求められました。違う記載をしたい場合は穴埋めで書けるように様々なバリエーションに応じた例を記述することを求められます。そして、問題なのはそれを件の人物が理解できるかです。理解できなければ没です。 - この人が書いたものが新しいルールになる
設計書の記述やコードの書き方のルールはどんどん増えていましたが、件の人物も当然ルールを把握しきれていませんでした。しかし、無敵の人はルール違反の指摘を受けることはありませんでした。その理由はこの無敵の人が書いたものがルールになるからです。この人物に修正を依頼しても直すことは恐ろしいほど時間がかかります。そのため、この無敵の人に対してルールを守らせることは時間的な制約から難しいことが少なくありませんでした。
コーディング規約や設計規約がある品質の高い成果物を作成しているという建前と無敵の人、両者のバランスをとった結果、この無敵の人が書いた内容が記述ルールである。ルールと無敵の人の記述が異なっていれば無敵の人が正しいということになりました。
このような状況であるため、ルールは日増しに増えていき、誰もルールを守ることができなくなりました。私は常識的なレベルの記述をして、ルールに則っているのかノーチェックでレビューに出すようにしました。他の人も頑張ってルールに合うようにしている姿勢は見受けられますがはっきり言って無駄な努力です。どれだけルールを守ったところで無敵の人が新しい書き方をしたらそれが新しいルールになるのですから。
まとめ
この人の存在はSier業界がまだまだ人手不足であることを端的に示しています。仕事ができない状態でいるとたしかに最初のころは居心地が悪いかもしれません。しかし、在籍年数さえ伸ばせればそれを理由に顧客に高額な単価を要求できるため、会社側にとってもいてもらうメリットが発生します。
この例が示すようにSier業界は能力が不足していたとしても受け入れてくれる器が大きく裾野も広い業界です。もし興味があれば入ってみるのも悪くはありません。